
任意後見はいつから?「任意後見監督人」選任のポイント
将来のもしもに備える「任意後見制度」。
言葉は聞いたことがあるけれど、具体的にいつから始まるの?
どんな人が関わるの?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、任意後見制度が実際にスタートする上で非常に重要な役割を担う「任意後見監督人」の選任について、法律の条文を交えながら分かりやすく解説します。
そもそも任意後見制度とは?
任意後見制度は、ご本人がまだ元気で判断能力がしっかりしているうちに、将来、認知症などで判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめご自身で選んだ人(任意後見受任者)に財産管理や身上監護に関する事務を任せる契約(任意後見契約)を結んでおく制度です。
この契約は、 公証役場で公正証書として作成する必要があります。
これは「任意後見契約に関する法律」の第三条でしっかりと定められています。
(任意後見契約の方式)
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
公正証書にすることで、契約内容が明確になり、後々のトラブルを防ぐことにも繋がります。
任意後見はいつから始まるの?
鍵は「任意後見監督人」。
さて、公正証書で任意後見契約を結んだだけでは、すぐに任意後見がスタートするわけではありません。
実際に任意後見が開始されるのは、家庭裁判所によって「任意後見監督人」が選任されたときからです。
では、どんな時に任意後見監督人が選任されるのでしょうか?
「任意後見契約に関する法律」の第四条第一項には次のとおり定められています。
(任意後見監督人の選任)
第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。
つまり、
- 任意後見契約が法務局に登記されていること
- ご本人の判断能力が精神上の障害により不十分になっていること
この2つの条件が揃ったときに、ご本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者(将来任意後見人になる予定の人)が家庭裁判所に申し立てをすることで、任意後見監督人が選任され、任意後見がスタートするのです。
同じく第四条第一項のただし書きに注目してみましょう。
ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
簡単にまとめると、
- ご本人が未成年者の場合
- ご本人が既に成年後見制度(法定後見)を利用していて、そちらを継続する方がご本人の利益になる場合
- 任意後見受任者(将来任意後見人になる予定の人)が、任意後見人にふさわしくないとされる一定の条件に当てはまる場合
これらの場合は、任意後見監督人は選任されません。特に3つ目の「任意後見受任者の適格性」は重要です。
任意後見人になれない人とは?(民法第八百四十七条より)
上記3の「イ」で触れられている「民法第八百四十七条各号(第四号を除く。)」とは、後見人になることができない人の条件(欠格事由)を定めたものです。具体的には以下のとおりです。
(後見人の欠格事由)
民法第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
任意後見契約に関する法律では、このうち「四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族」を除く人たちが、任意後見受任者として不適格であるとしています。
つまり、任意後見受任者が
- 未成年者
- 過去に家庭裁判所から法定代理人などを解任された経験がある人
- 破産者
- 行方不明者
である場合には、任意後見監督人は選任されません。
(なお、「本人に対して訴訟をし、又はした者~」については、上記の「ロ」で別途、任意後見受任者の欠格事由として定められています。)
さらに、「ハ」にあるように、不正な行為や著しい不行跡など、任意後見人の任務に適しないと判断される事情がある場合も同様です。
最後に・・・
任意後見制度を利用するには
1 信頼できる人を任意後見受任者として選び、公正証書で任意後見契約を結ぶこと。
2 ご本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てること。
この2つのステップが重要です。そして、任意後見受任者自身に欠格事由がないかどうかも、制度がスムーズに開始されるための大切なポイントとなります。
将来の安心のために、任意後見制度について正しく理解して利用することが大切です。
もしご不安な点があれば、当事務所や相談会でご相談ください。